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「白いもの」

2008年06月18日

     「白いもの」



  月の中から飛んでくる
  白い小鳥を見ましたか。

  
  花の中から咲いてくる
  白いにほひを見ましたか。

   
  水の中から湧いてくる
  白い狭霧を見ましたか。


  歌の中から澄んでくる
  白いひびきを見ましたか。


  夢の中からさめてくる
  白い光をみましたか。


  
 かわいい嬢さん、泣いたとき、
 白い小鳥をみましたか。








  

北原白秋「月と胡桃」 より 抜粋  

Posted by おはな
at 15:10Comments(0)

「青き花」

2008年06月18日

  「青き花」



そは暗きみどりの空に
むかし見し幻なりき。
青き花
かくてたづねて、
日も知らず、また、夜も知らず、
国あまた巡りありきし
そのかみの
われや、わかうど。

そののちも人とうまれて、
微妙くも奇しき幻
ゆめ、うつつ、
香こそ忘れね、
かの青き花をたづねて、
ああ、またもわれはあえかに
人の世の
旅路に迷ふ。






北原白秋「邪宗門」より抜粋





注;「微妙くも」は、「いみじくも」とよみます。

  

Posted by おはな
at 14:02Comments(0)

「邪宗門秘曲」

2008年06月18日

 
 
 「邪宗門秘曲」


われは思ふ、末世の邪宗、切支丹でうすの魔法。
黒船の加比丹を、紅毛の不可思議国を、
色赤きびいどろを、匂鋭きあんじやべいいる、
南蛮の桟留縞を、はた、阿刺吉、珍蛇の酒を。


目見青きドミニカびとは陀羅尼ずし夢にも語る、
禁制の宗門神を、あるはまた、血に染む聖磔、
芥子粒を林檎のごとく見すとい欺れんの器
波羅葦僧の空をも覗く伸び縮む奇なる眼鏡を。



屋はまた石もて造り、大理石の白き血潮は、
ぎやまんの壺に盛られて夜となれば火点るといふ。
かの美しき越歴機の夢はびろうどの薫にまじり、
珍らなる月の世界の鳥獣映像すと聞けり。



あるは聞く、化粧の料は毒草の花よりしぼり、
腐れたる石の油に書くてふ麻利耶の像よ、
はた羅展、ぽるとがるらの横つづり青なる仮名は
美しき、さいへ悲しき歓楽の音にかも満つる。


いざさらばわれらに賜へ、幻惑の伴天連尊者、
百年を刹那に縮め、血の磔脊にし死すとも
惜しからじ、願うは極秘、かの奇しき紅の夢、
善主麿、今日を祈に身も霊も薫りこがるる。






明治41年 8月 北原白秋「邪宗門」より抜粋  

Posted by おはな
at 13:51Comments(0)

「野菜」

2008年06月18日

     「野菜」


  地面のしたからころげ出た
  野菜のにほひはすばらしい。

  
  大きな葉牡丹、球キャベツ、
  中からみどりがはぢけます。

  
  メロンは西洋の味がする。
  黄色いしづくがこぼれさう。


  胡瓜の青疣、茄子の蔕、
  とても、もぎたて、むづがゆい。

  
  麦藁帽には赤トマト、
  てらてら跳ねます、ころげます。


  地面のしたから湧いて出た
  野菜のにほひはすばらしい。


  サラダと青葱、夏大根、
  朝からぷんぷんにほひます。



  



 昭和4年  北原白秋「月と胡桃」より 抜粋  

Posted by おはな
at 13:20Comments(0)